第十五話 「White Heat」 「ブラント・ファルブリー……!」 「おやぁ、覚えていて下さったとは光栄ですね。一度名乗っただけですのに」 地上に降り立ったブラントのブーツが、澄んだ音をたてた。 「昨日聞いたばかり、だからな」 「俺達以外の4人を、どうした」 「別にどうもしていませんよ。ただ、檻の中で大人しくして頂いているだけです。本当は貴方も檻に入って頂く予定だったんですが……」 どうも上手くいきませんでしたね、とブラントは残念そうに眉根を寄せた。 衙の後ろで小さくなっている女の子を捉えたブラントの目が、彼女を識別するかのように鋭く光った。 (やはり、所有者は替わっていたようですね。“もう一つの探し物”も見つかるかと期待したんですが) 「さ、“ 金色の光。それが衙の返答だった。 「まあ、予想通りと言えば予想通りなんですけどねぇ」 衙の右手が輝いたのを見て、ブラントは仰々しくため息をついた。 「貴方も檻に入れられれば良いんですが、僕が制御できる数にも限りがありますし。説得が不可能ということになれば、実力行使も 白い手袋をはめたブラントの指先で、火花が踊る。 「栞さん、下がってて」 衙は一層右手に力をこめ、重苦しい声で言った。 振り下ろした剣は、炎に押し戻された。 「どうやらこの火球、物理的攻撃が加えられると反応して、即座にその部分へ炎を集中させるみてぇだな」 董士と共に炎の中に閉じ込められた 「ならば、“ 董士が刃に 先程より大きく舌打ちして、董士は剣を数度振るった。薙ぎ払われた炎の槍が、壁へと戻る。 「どうも、“降魔の ( 360°あらゆる角度から飛び出す槍は、防ぎきれるものではない。強行突破を図れば、炎に貫かれる事は疑いない。 しかし、炎の壁自体は、主体的に攻撃してくるわけではない。相手を倒す事を目的としない、明らかな足止め用の術。かと言って、このままこの状況に甘んじていては、“聖禍石”が奪われる。 ――どうする すすきもまた、同じ問いを 「すき “聖禍石”を持っているから。 「大丈夫だよね。誰かがお姉ちゃんと一緒にいて、お姉ちゃんを守ってくれてるよね」 赤き色と燃ゆる音は、檻の外の情報を全て遮断している。 澪の祈るようなうわずった声に、すすきは答えた。不安で仕方が無い自分の心にも言い聞かせるように。 「ああ、きっと、大丈夫だ」 皮膚を突き刺す痛みに、衙は歯を喰いしばった。放たれた七つの火炎弾の内、五を叩き落すのがやっとだった。直撃を避けたものの、残りの二発は彼の左肩と右腿を焦がした。 「貴方の戦い方は知っていますよ。『 ブラントの周囲に、再び火の玉が現れる。今受けた攻撃より、更にその数を増したようだ。 「近付けさせなければ問題無い、ですよね」 朱色の灯の中、ブラントの口が綺麗な弧を描いた。 「下がってて!」 彼の名前を呼び、駆け寄ろうとする栞に、衙は叫んだ。 今にも泣き出しそうな彼女の顔を見て、衙は微笑んだ。 「大丈夫、だから」 衙は口元を再び引き締めると、波打つ赤髪の男へと視線を戻した。 「あまり長い間、貴方に大丈夫でいられると困るんですけどねぇ。他の退魔師のお仲間も、駆け付けて来るでしょうし」 そう言って、ブラントは右手を高く掲げた。 「早々に、片を付けさせて頂きますよ」 ひゅっ、とその右手を振り下ろすと、彼の周りで揺らいでいた火の玉は、一斉に衙へと突進した。 衙は奥歯を固く噛みしめると、襲い来る火炎弾へ向かって自ら走り込んだ。 (完全な回避は不可能、と見ての攻守転換ですか。思ったより素早い判断ですね) 衙の行動に、ブラントは細い眉を少し上げた。 衙は右手首に左手を添え、力を込める。右手の光が、その金色の輝きを強めた。“ 長く気合を発して、衙が右腕を突き出す。光とぶつかった火球が弾け飛んだ。が、“昊天”の軌道上に乗らなかった数発は、彼の体に当たって爆ぜた。 元より何発か喰らうことは覚悟の上だった。体のあちこちに走る激痛で被弾を認識しながら、衙の瞳は一点だけを見つめていた。 “昊天”の終着点――ブラントの心臓を。 「“人魔術”を使え、真人」 董士が鋭い口調で言った。 「何言ってんだよ、董士。“降魔の 打開策が思い浮かばないためか、焦りと苛立ちに満ちた声で真人は答えた。 「この状況下だからこそ、“人魔術”が必要だ。お前が術の詠唱をしている間、俺が炎を喰い止める」 見開いた目で、真人は董士の顔を見つめた。 数秒沈黙した後で、頼む、と真人は短く言った。董士の瞳には、僅かも 真人は右手を顔の高さに上げると、人差し指と中指だけを立てた。 「それじゃ、始めるぞ。準備はいいか?」 無言で頷いた董士は、 |